受水槽の清掃には決まりがありますが、配管の内側を洗う決まりはありません。義務の切れ目が、そのまま管理の空白になっています。
配管の内側にできる薄い膜(バイオフィルム)は、義務のない場所で育ちます。オーナーさまが自分で確かめられるのは、残留塩素と、使っていない部屋の最初の水の2つです。
給水管の内側は誰の責任で、どこまでやれば足りるのか。賃貸住宅のオーナーさま向けに、法令で決まっていることと、決まっていないことを分けて整理しました。
受水槽は年1回清掃するのに、配管の内側は
受水槽のある建物では、水槽の清掃を年1回行い、検査を受けます。ここは決まりがあるので、管理会社さまの年間計画にも必ず入っています。
一方で、受水槽から各戸の蛇口までをつなぐ給水管の内側について、清掃を求める決まりはありません。点検の項目にもありません。つまり、建物のいちばん長い部分が、管理の対象から外れています。
これは手抜きではなく、決まりの作り方がそうなっているだけです。ただ、決まりがないところで起きたことは、クレームになったときにオーナーさまの側で受け止めることになります。
バイオフィルムとは何か(薄い膜の正体)
水が触れている面には、時間が経つと薄い膜ができます。水中の微生物が自分の作った粘り気のある物質の中で層になったもので、これをバイオフィルムと呼びます。台所の三角コーナーや、花瓶の内側にできる、あの手触りのものと同じ成り立ちです。
どこにできるか
水の流れが遅い場所、よどむ場所、温度が上がる場所に先にできます。建物では、長期空室の部屋へ向かう枝管、あまり使われない共用の水栓、給湯の配管、受水槽の壁面が該当します。
流れの速い主管より、末端のほうができやすい。つまり、いちばん見えない場所から始まります。
なぜ落ちにくいか
バイオフィルムは、自分で作った粘り気のある層に守られています。この層が塩素の浸透を弱めるため、水に塩素が入っていても、膜の内側までは届きにくくなります。
水を流すだけでは剥がれず、薬剤も届きにくい。だからこそ、できてから落とすのではなく、付きにくい状態を保つほうが現実的な対処になります。
オーナーに義務があること、ないこと
建物の給水方式によって、法令上の位置づけが変わります。自分の建物がどれに当たるかを、まず確かめてください。
小さな建物の場合
10戸前後のアパートでは、受水槽がないか、あっても小さい場合が多く、法令で毎年やることは少なくなります。やることが少ないのは楽ですが、同時に、誰も配管の中を見ない状態が続くということでもあります。
決まりが少ない建物ほど、オーナーさま自身が基準を決めておく意味があります。次の項目は、費用をかけずに自分で確かめられるものです。
| 建物のつくり | 法令上の位置づけ | 決まっていること | 配管の内側について |
|---|---|---|---|
| 受水槽があり、有効容量が一定の大きさを超える | 水道法の簡易専用水道 | 水槽の清掃は年1回。登録検査機関の検査も年1回 | 決まりなし |
| 受水槽があるが、それより小さい | 自治体の条例・要綱による(名称も自治体で異なる) | 多くの自治体が水槽の清掃と点検を求めている | 決まりなし |
| 受水槽がなく、道路から直接つないでいる | 水道局の給水管として扱われる部分と、建物側の部分に分かれる | 建物側の維持管理は所有者 | 決まりなし |
出典:水道法と各自治体の条例(2026-09-26 時点)。ご自身の建物がどれに当たるかは、受水槽の容量と、管轄の水道局の指導で決まります。窓口でご確認ください。
クレームになる前に確認できること
入居者から「水がおかしい」と言われる前に、こちらから確かめておけることが2つあります。どちらも道具はほとんど要りません。
残留塩素
水道水には、給水栓のところで下限を満たすように塩素が入っています。市販の試験紙で色を見れば、その場で分かります。
見るのは絶対値より、場所ごとの差です。メーターに近い水栓と、建物のいちばん奥の水栓で色が違うとき、その間で塩素が消費されています。消費しているものが、配管の内側にあるということです。
使っていない部屋の初期水
空室の水栓を開けた最初の水を、白いバケツに受けてみてください。色、にごり、においを見ます。1分流したあとの水と比べると、その枝管の中で何が起きているかが分かります。
空室が長い部屋は、水が動きません。内見の直前に通水するだけで、内見での第一印象が変わります。これは費用が0円でできることです。
抑制という考え方
配管の内側を洗う工事は、できますが費用がかかり、入居中は制約も出ます。もう一つの考え方は、通る水の側を変えて、付きにくい状態を保つことです。
ウルトラファインバブルは直径1マイクロメートル未満の泡で、表面がマイナスに帯電しています。汚れの多くはプラス側・水をはじく側の性質を持つため、泡が汚れと配管の面の間に入り、付着する力を弱めて水流で剥がれやすくします。浮き上がらず水中をただようので、元栓に入れた1台の効きが建物の奥の配管まで届きます。
これは、できたものを取り去る工事ではありません。付きにくい状態を続けて、進みかたを緩やかにするという方向です。効きは環境と水質で変わり、配管の中が変わっていくまでには時間がかかります。食品工場の排水管では、導入から6か月を過ぎた頃から清浄化が進んだ記録があります。
- できること:汚れの付着を抑え、剥がれやすい状態にする
- 時間がかかること:配管の内側の変化は、月の単位で進む
- できないこと:菌そのものを扱う機器ではありません。水質検査や受水槽の清掃の代わりにはなりません
- 変わらないこと:すでに配管が薄くなっている場合、厚みは戻りません
「水がおかしい」と言われたときの順番
連絡が来たときに慌てないよう、見る順番を決めておくと早く収まります。原因の切り分けは、範囲を狭めていくのが基本です。
1戸だけか、複数戸か。台所だけか、すべての水栓か。お湯だけか、水も同じか。この3つを聞くだけで、原因が住戸の中の器具か、共用の配管か、受水槽より前かに分かれます。
- 1戸だけ・1か所だけ → その器具か、その枝管を見る
- 複数戸で同じ → 共用の配管か受水槽より前を見る
- お湯だけ → 給湯器と給湯配管を見る
- 赤い水が出る → 鉄の配管の錆が原因。水の側からの対策とは別の手当てが必要です
よくあるご質問
給水管の内側を清掃する義務はありますか
法令で毎年の清掃を求められているのは受水槽で、給水管の内側にその決まりはありません。ただし建物側の給水設備の維持管理は所有者の責任なので、義務がないことと、放置してよいことは別です。
受水槽の清掃は年に何回必要ですか
水道法の簡易専用水道に当たる建物では、水槽の清掃が年1回、登録検査機関による検査も年1回と定められています。それより小さい受水槽は自治体の条例や要綱によるので、管轄の水道局にご確認ください。
入居者からにおいの苦情が来たら、まず何を見ますか
1戸だけか複数戸か、水栓1か所かすべてか、お湯だけか水も同じか、この3点をお聞きします。範囲が分かれば、住戸内の器具か共用配管かの切り分けができます。排水側のにおいであれば、封水切れのほうが先に疑う対象です。
レジオネラの対策として使えますか
温床になるバイオフィルムの抑制までが、この設備でできることです。菌を扱う機器ではないので、殺菌剤や専門の水質管理と重ねてお使いください。検査や清掃の代わりにはなりません。
配管の洗浄工事とどちらを先にやるべきですか
すでに詰まりや流れの悪さが出ているなら、洗浄が先です。まだ症状が出ていない建物で、これから先の進みかたを緩やかにしたい場合は、水の側から入れる順番になります。
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